【医療従事者向け】糖尿病の食事指導ガイド|適切な進め方と指導ポイントを解説
26/01/08 18:46
「食事療法が基本であることはわかっているけれど、患者さんにどう伝えれば行動が変わるのだろう?」 「教科書通りの指導をしても、なかなか実践してもらえない」
糖尿病のケアに携わる医療従事者や看護学生のなかには、このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。食事指導は、患者さんの長年の習慣や嗜好に深く関わるため、単に「正論」を伝えるだけではうまくいかないのが現実です。
そこで本記事では、最新のガイドラインに基づいた食事指導に関する知識と、患者さんの行動変容を促す実践的なアプローチ方法を体系的に解説します。明日からの指導に役立つ具体的なポイントを整理しましたので、ぜひ参考にしてください。
糖尿病の食事指導とは?基本と目的

糖尿病治療において食事指導は、単なる「カロリー制限」や「我慢の強要」ではありません。食事指導の本来の目的は、患者さん自身が食習慣を見直し、生涯にわたって良好な血糖コントロールを維持できるようサポートすることにあります。ここでは、指導の根幹となる考え方を整理しましょう。
糖尿病における食事指導の役割と必要性
食事療法は、薬物療法や運動療法と並ぶ糖尿病治療の「基本の基」です。どんなに優れた薬を使用していても、食生活が乱れていては十分な治療効果が得られません。
適切な食事管理を行うことで、インスリンの分泌能を温存し、インスリン抵抗性(効きにくさ)を改善することが期待できます。これにより、網膜症や腎症、神経障害といった三大合併症の発症や進行を防ぐことが可能になります。
また、過度な体重増加を防ぎ、脂質異常症や高血圧といった併発しやすい疾患のリスクを下げるためにも不可欠です。つまり、食事指導は「血糖値を下げるため」だけでなく、「患者さんの健康寿命とQOL(生活の質)を守るため」に極めて重要な役割を担っているのです。
医師・管理栄養士・看護師それぞれの役割
糖尿病の食事指導は、多職種が連携して行うことで質が高まります。以下のように役割分担を理解しておくことが重要です。
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医師:診断や治療方針の決定を担い、食事療法の必要性や全体像を患者さんに説明します
管理栄養士:具体的な食事内容やエネルギー量、食品選択の方法を専門的に指導します
看護師:患者さんに最も近い立場として、生活背景や不安を把握し、日常での実践を支える役割を担います(外食が多い患者さんに対して現実的な選択肢を一緒に考えるなど、橋渡し的な存在です)
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それぞれの強みを生かし、「誰が何を伝えるか」を共有することで、患者さんにとって理解しやすく、継続しやすい食事指導につながるでしょう。
糖尿病の食事指導で押さえたい基本ポイント

糖尿病の食事指導では、感覚的な説明ではなく、科学的根拠に基づいた共通理解が欠かせません。ここでは、エネルギー量の考え方や栄養素バランス、食べ方の工夫など、医療者として押さえておきたいポイントを整理していきます。
1日のエネルギー量の考え方と算出方法
結論から言うと、糖尿病のある方であっても、1日に必要なエネルギー量は健康な人と大きく変わらないと考えられています。日本糖尿病学会の資料では、「糖尿病だから一律に食事量を減らす」という考え方は推奨されていません。
1日のエネルギー量は、年齢・性別・身長・体重・身体活動量などを踏まえて個別に設定することが基本です。現在は「標準体重」ではなく、「目標体重」を基準に考えることが重視されています。
具体的には、目標体重に身体活動量に応じたエネルギー係数を掛けて算出しますが、この数値はあくまで目安です。重要なのは、過不足のないエネルギー摂取により、適正体重を維持しながら血糖値を安定させることでしょう。
食事指導の場では、計算結果だけを伝えるのではなく、「なぜこの量になるのか」「生活の中でどう配分するか」を一緒に考える姿勢が、患者さんの理解と継続につながります。
1日の適正エネルギー量(kcal) = 目標体重(kg) × エネルギー係数
<①目標体重の算出>
目標体重は、年齢によって用いる係数が異なります。特に高齢者ではフレイル予防の観点から、少し高めのBMIを目標とします。
・65歳未満:身長(m) × 身長(m) × 22
・65歳〜74歳:身長(m) × 身長(m) × 22〜25
・75歳以上:身長(m) × 身長(m) × 22〜25
※75歳以上の後期高齢者では、現体重に基づき、フレイルや身体機能の評価を踏まえて適宜判断します。
<②エネルギー係数(身体活動レベル)の目安>
日々の活動量に合わせて係数を選択します。
・軽い労作(デスクワーク・主婦など):25〜30 kcal/kg
・普通の労作(立ち仕事・家事+軽い運動など):30〜35 kcal/kg
・重い労作(力仕事・活発な運動習慣など):35〜 kcal/kg
3大栄養素のバランス(糖質・脂質・たんぱく質)の最新基準
エネルギー量だけでなく、PFCバランス(たんぱく質・脂質・炭水化物)の適正化も指導のポイントです。極端な制限は推奨されておらず、以下のバランスを目安に調整します。
なお、これら三大栄養素の適正比率について確立されたエビデンスはなく、患者さんの病態や嗜好に合わせて個別に設定することが基本とされています。栄養指導では、「割合を守ること」よりも、「偏りを避けること」を意識して伝えると、患者さんにとって理解しやすくなるでしょう。
・炭水化物:40〜60%
身体活動量やインスリンの使用状況に応じて決定します。極端な糖質制限の長期的有効性や安全性は明確ではないため、推奨されていません。
・たんぱく質:20%まで
筋肉や臓器を作る重要な栄養素ですが、過剰摂取は腎臓への負担となる場合があるため、摂取エネルギーの20%以下を目安とします。腎症がある場合は、病期に応じた制限が必要になることがあります。
・脂質:25%程度(残りの割合)
炭水化物とたんぱく質以外のエネルギーを脂質で摂取します。比率が25%を超える場合は、肉の脂身や乳製品に含まれる「飽和脂肪酸」を減らし、魚や植物油に含まれる「不飽和脂肪酸」を選ぶよう指導します。
NG食品ではなく「どう食べるか」を重視する理由
食事指導において「食べてはいけないもの」を作ることは、必ずしも得策ではありません。過度な制限は患者さんのQOL(生活の質)を下げ、ドロップアウトの原因になるだけでなく、高齢者では低栄養や筋肉量の減少(サルコペニア)を招くリスクすらあります。
そのため、食事指導では「ダメ」と伝えるのではなく、「どう工夫すれば食べられるか」を一緒に考えることが、行動変容を促す重要なポイントです。
<嗜好品との付き合い方>
お菓子やアルコールは栄養学的に必須ではありませんが、生活の楽しみでもあります。完全に禁止するのではなく、「1日150g(果物なら)程度にする」、「週に〇回までと決める」といった具体的なルール作りを支援します。
<食品の選び方>
例えば、揚げパンよりはサンドイッチ、バラ肉よりはヒレ肉といったように、同じカテゴリーの中でも血糖値や脂質に影響しにくい食品を選ぶ力をつけてもらうことが大切です。
食後の血糖値を安定させる食べ方の工夫(GI値・食物繊維)
食後血糖値の上昇を抑えるためには、食品選択だけでなく食べ方の工夫が重要です。
指導の場では、数値や理論だけでなく、以下のような日常行動に落とし込めるポイントを具体的に伝えることが大切でしょう。
<食べる順番(ベジファースト)>
炭水化物(ご飯・パン)を食べる前に、野菜・海藻・きのこ(食物繊維)や、肉・魚(たんぱく質・脂質)を先に摂取します。これにより、糖質の消化吸収が緩やかになり、血糖値の急上昇を。
<よく噛んでゆっくり食べる>
早食いは過食や急激な血糖上昇につながります。よく噛むことで満腹中枢が刺激され、インスリン分泌のタイミングとも合いやすくなります。
<食物繊維の積極的な摂取>
食物繊維には糖質の吸収を遅らせる働きがあります。1日20g以上を目標に、毎食野菜を取り入れるよう指導します。
<低GI食品の活用>
GI(グリセミック・インデックス)が低い食品は血糖値を上げにくいとされています。白米より玄米、食パンより全粒粉パンを選ぶことは、食物繊維摂取の観点からも有効でしょう。
糖尿病患者に対する食事指導の進め方【実践編】

知識があっても、それを患者さんに実践してもらえなければ意味がありません。ここでは、実際の臨床現場や指導の場面で使える、具体的な指導のステップとコミュニケーションのコツを紹介します。一方的な「説得」ではなく、双方向の「納得」を目指しましょう。
①初回指導で確認すべき項目(食習慣・体重・目標設定など)
初回は、いきなり指導を始めるのではなく、現状把握(アセスメント)に時間を割いてください。患者さんの生活背景を知ることがスタートラインです。
<初回指導での確認ポイント>
・食習慣:朝食欠食の有無、食事の時間帯、早食いかどうか
・嗜好:間食の内容、アルコール摂取量、外食やコンビニ利用の頻度
・社会背景:家族構成(誰が料理を作るか)、仕事のスケジュール
・本人の認識:なぜ食事療法が必要か理解しているか、やる気(レディネス)はあるか
まずは、患者さんの話を丁寧に聞くことで、信頼関係が築かれ、その後の指導がスムーズになります。また、目標は医療者が一方的に決めるのではなく、患者さんと一緒に設定する姿勢が重要でしょう。
②食事記録の取り方とアセスメントのポイント
正確な食事内容を把握するために、食事記録をつけるよう指導したいですね。ただし、完璧さを求めすぎると負担になり、継続が難しくなるため注意が必要です。
写真や簡単なメモでも十分であり、「続けられる方法」を一緒に考えることが大切です。記録をもとに、量やタイミング、偏りを確認し、改善点を具体的にフィードバックします。
特に評価では、できていない点より、できている点に注目すると、患者さんのモチベーション維持につながるでしょう。
<続けやすい記録方法>
・写真撮影:スマホで毎食写真を撮ってもらうのが最も簡単で情報量が多い
・簡易メモ:「ご飯茶碗1杯」「唐揚げ3個」など大まかな量でOK
・アプリの活用:AIが自動でカロリー計算や栄養解析を行ってくれるものもある◎
<アセスメントの視点>
記録を見るときは、カロリー計算だけでなく「見えない糖質」に注目します。清涼飲料水、缶コーヒー、ドレッシングのかけ過ぎなど、患者さんが無意識に摂取している糖質を見つけ出し、気づきを促すようなフィードバックを行いましょう。
なお、以下の記事では食事記録に便利な無料アプリを紹介しております。ぜひご覧ください。
参考記事:糖尿病食の献立はこれでOK!朝昼晩の献立例と食事管理を楽に続けるコツ
③継続支援とフォローアップの仕組みづくり
食事療法は一生続くマラソンのようなものです。一度の指導で完璧になることはありません。定期的な面談や外来での声かけにより、小さな変化を一緒に確認していきましょう。数値だけでなく、「前より間食が減った」など行動の変化を評価する視点も大切です。
<継続支援のポイント>
・振り返り:目標が守れたかを確認する
・承認・称賛:できたこと(例:野菜を増やせた等)を具体的に褒める
・問題解決:できなかった場合は、責めずに「なぜできなかったか」を一緒に考え、対策を練る
「先生(看護師さん)が見てくれている」という安心感が、患者さんの継続する力になります。決して叱らず、伴走者としてのスタンスを崩さないことが大切です。
④行動変容を促す指導フレーム
患者さんの行動変容を促すには、「やる気」の段階に合わせてアプローチを変える「行動変容ステージモデル」を活用すると、指導がスムーズになります。まずは相手がどのステージにいるかを見極め、無理強いせずに段階に合った言葉がけを行うことが、行動変容への近道となるでしょう。
<行動変容ステージモデル>
①無関心期(関心がない):情報の提供を行い、気づきを促す。「このままだとどうなるか」を優しく伝える
②関心期(やりたいけど自信がない):メリットとデメリットを整理し、背中を押す
③準備期(やる気がある):具体的な方法を提案し、開始日を決める
④実行期(実践している):できたことを褒め、支援を続ける
⑤維持期(続いている):逆戻りを防ぐための工夫を話し合う

食事指導に使える教材・パンフレット一覧
口頭での説明だけでは、患者さんの記憶に残りにくいものです。視覚的に理解できるパンフレットやツールを活用しましょう。以下、オンラインでダウンロードできる資料をご紹介します。
・日本糖尿病学会|健康食スタートブック(PDF)
糖尿病治療の三本柱や食事療法の目的、栄養食事指導の基礎を図やイラスト入りで解説した冊子で、初回指導や糖尿病教室の配布資料として汎用性が高いものになっています。
・糖尿病情報センター|患者向け資料(PDF・PPT)
日本糖尿病療養指導士(CDEJ)を中心に糖尿病をお持ちの方へ向けて「ここだけは知ってほしい」という内容をまとめたものです。
・三和化学研究所|学ぼう!糖尿病シリーズ|患者教育用資材(PDF・PPT)
糖尿病入門編として、カラフルなイラストや図表が用いられた分かりやすい資料。テーマごとに、糖尿病に関する疑問をQ&A形式で掲載しています。知識の定着に役立つおさらいチェックシート付き。
・日本イーライリリー株式会社|知りたい!糖尿病(PDF)
JADEC(日本糖尿病協会)が内容検証をした資料で、カラフルなイラストや図表が用いられ読みやすい一冊です。知識の定着に役立つクロスワードパズル付き。
よくある質問(FAQ)|医療者・看護学生向けまとめ
最後に、食事指導の現場で医療従事者や学生が抱きがちな疑問について、Q&A形式で解説します。
糖尿病食事指導は誰ができるの?管理栄養士でなくてもいい?
食事指導の専門家は管理栄養士ですが、医師や看護師も基本的な説明や支援は可能です。重要なのは、役割を理解し、専門的判断が必要な場合は管理栄養士につなぐことです。
食事指導(栄養指導)の流れは?
一般的には、現状把握、目標設定、具体的提案、フォローアップの順で進みます。段階的に行い、患者さんの負担をできる限り減らしましょう。
食品交換表の使い方が難しい…どう使えばいい?
食品交換表は慣れが必要ですが、最初は「主食の量を知る」など一部から活用すると理解しやすくなります。完璧を求めないことが継続のコツです。
まとめ
糖尿病の食事指導は、制限を押し付けることではなく、患者さんが「自分らしい生活」と「治療」を両立できるようサポートすることです。
正しい知識(エネルギー量や栄養バランス)を持つことはもちろん重要ですが、それ以上に「患者さんの生活に寄り添い、できることを一緒に探す」という姿勢が求められます。
まずは、次に出会う患者さんの「食事の悩み」をじっくり聞くことから始めてみませんか?あなたの親身なアプローチが、患者さんの行動を変える大きなきっかけになるはずです。